和釘とは
一般的に「釘」と言われてすぐ頭に思い浮かべるイメージがあると思いますが、これは明治時代以降に輸入された所謂「洋釘」です。弊社で製造している釘は「和釘」といって、洋釘が日本に広まるまでは日本の建造物になくてはならないものでした。
さて、和釘と洋釘にはどんな違いがあるでしょうか?
まず明らかに違うのはその見た目です。和釘の頭は釘の種類によって色々な形がありますが、軸のほとんどは角ばった形をしています(まれに丸い軸もあります)。洋釘は先にも述べた一般的な釘のイメージ「頭が平たくて軸が丸い」形をしています。
2つ目の違いはその全く異なる釘を生み出す製造方法です。洋釘は工場で大量生産されますが、和釘は1本1本手打ちで仕上げられます。そのため洋釘に比べて和釘の単価は高くなってしまいますが、手打ちによるメリットもあります。それが3つ目の違いです。洋釘は木材に打ち込まれてからしばらく経つと表面が錆び、その錆によって木材への食いつきが良くなるのですが、加熱・鍛錬されていないため次第に釘内部まで腐食が進んでしまいます。
一方手打ちで仕上げた和釘は軸全体に微妙な凹凸が出来、また、角ばった形状のため木材への食いつきも良く洋釘同様表面の錆によってさらに食いつきが良くなるのですが、洋釘とは違い加熱・鍛錬をしているため表面に形成された酸化被膜によってその後の腐食に強くなっています。
写真は福島県喜多方市にある願成寺の解体修理の際に取り出された、約350年前の巻頭釘です。風雨にさらされていた頭部は一部欠損していますが、全体としては350年前に作られたとは思えないほどしっかりとした姿を残しています。(願成寺は平成23年3月11日の東日本大震災時に倒壊は免れたものの損傷が大きく、また、耐震補強工事のために一部解体修理が行われました。)
一目で釘が大きく曲がっていることがお分かりいただけると思います。和釘は打ち込んだ先に固い節があるとその節を避けるように自ら曲がっていきます。これは和釘の材料に炭素量の少ない「軟鉄」を使用しているためです。
仮に軟鉄ではなく、硬い「鋼」で作った和釘を木材に打ち込んだ場合、硬い釘は木材の節まで割ってしまうため木材が使い物にならなくなってしまいます。
純度の高い鉄で作った和釘は錆びないと言われますが決して錆びないわけではありません。和釘も洋釘同様、木材に打ち込まれた後湿気によって表面に錆が生じることは前述しました。しかし、和釘は加熱・鍛錬しているため錆が釘の中心まで達することはありません。上の写真にある350年前の和釘も表面の錆を落とせば再びきれいな面を現します。
弊社ではこの古い和釘を展示しております。工場見学の際にはぜひ間近でご覧ください。
新潟県三条市の和釘製造の歴史はおよそ400年前まで遡るといわれます。弊社は全国でも数少ない和釘専門の鍛冶屋として伊勢神宮をはじめ、全国各地の寺社仏閣その他文化財修復のための和釘を納めてまいりました。そしてこれからも先人の遺志を受け継ぎ、和釘製造に邁進してまいります。